教員コラム~TOM'S薬箱~

なぜ"眠り"が必要なのか

私たち人聞は平均して1日8時間ぐらい眠ります。
人生の3分の1は眠って過ごすことになるのですが、なぜ私たちは眠るのでしょうか?
睡眠を"休息状態"と捉えると、細菌から動物まで多くの生物ではそうした休息状態がみられます。昼行性の人間が夜眠るのも休息です。また、クマは餌の少なくなる冬に冬眠しますし、ある種の細菌は周囲の栄養や温度などの環境状況が悪くなると、芽胞(がほう)という耐久性の高い細胞構造を形成して代謝活動を落とし休眠状態に入ります。つまり、生物は活動性を低下させた方が得な場合に、"眠る"という手段を使い効率的に活動しているように思われます。
人間を含めほとんどの哺乳類は日周リズムに従って睡眠をとります。2~3時間しか眠らない動物もいれば、20時間ぐらい寝て過ごす動物もいます。眠りの深さも様々で、大型の肉食動物は長く深く眠り、小型の草食動物は短く浅く眠ります。陸上で生活する哺乳類は、睡眠中にはからだの動きが極めて少なくなり脳活動が全体的に低下する一方、イルカなどの海洋生物は水中を泳ぎながら脳の左半分と右半分が交互に眠るようです。
哺乳類の睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠に大別されます。ノンレム睡眠は脳波に遅い周波数成分が多くなることが特徴です。一方レム睡眠は覚醒時(起きている状態)に似た速い周波数成分の脳波を示し、速い目の動きが起こることやはっきりとした夢を見ることが特徴です。
人間は眠りにつくとまず浅いノンレム睡眠に入り、それが時間とともに深まります。1時間ほどたつと眠りが浅くなり始め、その後レム睡眠に入ります。レム睡眠が10-20分ほど続いた後、再び浅いノンレム睡眠に入ります。こうしたサイクルを一晩で5回ぐらい繰り返します。昔は「意識が消失する」という主観的な経験から、睡眠中には脳活動が著しく低下すると信じられていました。しかし、近年の脳代謝活動測定技術の飛躍的な進歩により、これが迷信であることがわかってきました。人間では、深いノンレム睡眠中でさえ脳の血流は覚醒時の8割程度に保たれ、レム睡眠時には覚醒時とほとんど変わりません。レム睡眠の特徴であるはっきりとした夢見は、この時期の高い脳活動の反映なのかもしれません。
最近、頭部に弱い電流をゆっくりとした周波数で流し、深いノンレム睡眠を人工的に増やすと睡眠前に学習したことをよく覚えるようになることや、レム睡眠量と運動技能の向上とが相関することが明らかになってきました。眠ることには、単なる休息というより、もっと能動的な機能もあるようです。

(大学院医学薬学研究部 教授 服部 裕一)