教員コラム~TOM'S薬箱~

春は異~腸し(良い調子)

待ち望んだ春がやってきました。今年の冬は雪が多かったので、暖かくなるのを首を長くして待っていた方も多かったのではないでしょうか。春といえば、お花見や新歓コンパの季節。つい食べ過ぎたり飲み過ぎたりして、「あれ?どうも胃腸の調子が変だな。」なんてことはありませんか。
胃もたれや胸焼けなどの症状は胃や腸などの消化管の働きが悪くなると現れます。消化管の働きは自律神経の1つである副交感神経によって調節されています。副交感神経が興奮するとアセチルコリンと呼ばれる物質が放出されて、消化管運動が活発になります。逆にアセチルコリンの量が少なくなると、消化管運動が鈍くなります。このアセチルコリンの放出量の調節にはドパミンとセ口卜二ンという物質が関与しています(図1)。
副交感神経終末で、ドパミンがその受容体(02受容体)と結合するとアセチルコリンの放出が抑制されますが、一方、セロトニンが受容体(5-HT4受容体)に結合するとアセチルコリンの放出が促進されます。つまり、ドパミンと受容体との結合を阻害するか、セ口ト二ンと受容体との結合を促進すると、アセチルコリンの量が増え、消化管の運動が活発になるというわけです。
消化管の運動を活発にする薬(図2)として、古くからメトク口プラミドが使われてきました。メトク口プラミドは、胃や腸に存在するD2受容体と結合して、ドパミンと受容体の結合を阻害することで消化管運動を促進します(※)。しかし、意識障害やけいれんなどの副作用が見られ、この副作用は脳内にあるD2受容体を遮断することで発生していると推察されました。この問題を解決するために開発されたのが、モサプリドという薬です。モサプリドはメトク口プラミドと異なり、D2受容体とは結合せず、5-HT4受容体に特異的に結合して、アセチルコリンの放出を促進します。このことから副作用が劇的に軽減されて画期的新薬となりました。モサプリドは現在、慢性胃炎にともなう胃もたれなどの症状の改善薬として病院などで処方されています。
モサプリドは、消化器疾患の治療だけでなく、検査の時にも使われています。大腸のX線検査の際、検査前に便の排泄を促す薬で大腸の中をきれいにしますが、この薬が腸内に残らないようにモサプリドを用いて除去しているのです。
春は環境の変わるときでもあります。新入生として新社会人として、また新たな部署への異動など、慣れない環境でストレスを感じるときもあると思いますが、胃腸の健康を保って、素敵な春をエンジョイして下さい。モサプリドのお世話にならないよう、くれぐれもお気をつけ下さい。


この説明文は、平成21年度富山大学薬学部3年次総合薬学演習において、調査開発表された内容を部抜粋し要約したものです。※現在は、メトク口プラミドは5-HT4受容体緊縮作用も有していると考えられています。