教員コラム~TOM'S薬箱~

うつ病とその治療薬

SSRIの作用のしくみ

「うつ病で自殺」富山県内急増全国12位
(2009年5月14日付北日本新聞夕刊より)

こんな気になる新聞記事がありましたが、ご覧になったでしょうか。
2008年の富山県内での自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)は30.1人で、全国12位になったそうです。その原因のトップは、うつ病などの健康問題でした。
うつ病は気分障害(感情障害)の一種で、抑うつ気分・意欲低下・不安・焦燥などの精神的症状と、食欲不振・不眠などの身体的症状を併発する精神疾患で、重症化すると自殺願望を伴います。患者数はここ数年増加しており、日本では約15人に1人が生涯の間にうつ病になると考えられています。また、男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいといわれています。病因はいまだはっきりしていませんが、長期にわたる精神的なストレスが主要因であることが多いようです。意外なことに、昇進や転居などの喜ばしい出来事も誘因となる可能性があります。
うつ病の治療は休息と抗うつ薬の投与が原則で、精神療法も併せて行われます。一般に抗うつ薬の効果が表れるまでには数週間を要しますので、治療には3カ月以上かかります。また、再発を防ぐため、回復後も6カ月以上は薬を飲み続けることが必要です。抗うつ薬は副作用に注意しながら用いられます。これまでに多くの抗うつ薬が開発されていますが、以前よりよく使われてきた三環系や四環系抗うつ薬に加えて、現在は副作用の点からSSRI(選択的セ口卜ニン再取り込み阻害薬)が使われることが多くなってきました。
うつ病の発症には、セロトニンとノルアドレナリンいう神経伝達物質やその受容体が関与しているのではないかという説が有力です。セ口卜ニンは落ち着きや安定感をもたらす神経伝達物質で、神経細胞からの刺激によりシナプス間隙に放出されます。放出されたセロトニンはシナプス後に存在する細胞の受容体に作用し刺激を伝達しますが、一部はシナプス前の細胞に再び取り込まれて再利用されます。SSRIはセ口トニンの再取り込みのみを阻害して、シナプス間隙におけるセ口卜ニンの濃度を上昇させ神経の伝達効果を高めるので、副作用がかなり軽減されます。ノルアドレナリンは、注意力や判断力を促す神経伝達物質です。最近は、このノルアドレナリンの再取り込みも同時に阻害するSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)も開発されています。ただし、SSRIやSNRIは青少年に自殺念慮、自殺企図を増強させる恐れがあるため慎重な使用が求められます。これら以外にも抗うつ薬の開発が進められていますが、富山大学和漢医薬学総合研究所では、抗うつ効果を持つ漢方薬の検討が行われています。
うつ病の初期は、ちょっと体調が悪いかな?という状態が続きます。そんな時は無理に頑張らずに、スポーツや音楽などの趣昧を楽しんで、心身を休めるように心掛けましょう。また、周りにうつ病の人がいるときは、不用意に励まさないこと、無理に誘わないこと、症状がひどいときには病気であることを伝えて医療機関の受診を勧めることなどが大切です。うつ病は治療すれば治る病気です。正しい知識を身につけ適切な治療を受けるようにしましょう。

(富山大学薬学部薬学科4年 安養 仁美)