教員コラム~TOM'S薬箱~

眠くならない風邪薬

夏は熱帯夜による寝不足、暑気による食欲不振、日焼けなどが原因で、免疫力低下により夏風邪を引きやすいという方が結構いるようです。
また、風邪薬を飲むと眠くなるといった経験をお持ちの方はたくさんおられると思います。これは風邪薬いわゆる総合感冒薬には、くしゃみや鼻水を引き起こす物質であるヒスタミンの作用を抑えるため、抗ヒスタミン薬が配合されていることが多いからです。ところが、ヒスタミンの作用には、脳内物質として眠気を抑えて覚醒状態を保つ重要な役割もあり、抗ヒスタミン薬が脳内に移行すると、この働きもまた抑制されるために、眠気がさしたり、頭がボーッとすることがあるわけです。服用後に眠気を感じさせないまでも、集中力や判断力を低下させるので、ミスを犯しやすく、仕事や勉強、車の運転、スポーツといった日常生活にも支障を起こします。
抗ヒスタミン薬が脳に働くと眠気が出現するわけですから、脳へ移行しにくい薬が望まれ、そのような目的で非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬が次々と開発されましたが、眠気による影響は少ないとはいうものの個人差は存在し、しかも医療機関でしか処方されないものがほとんどです。
OTC医薬品(大衆薬)の総合感冒剤には、上記の抗ヒスタミン薬のほか、ブロムワレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素など催眠・鎮静成分が、鎮痛作用を高めるために配合されていることが多いですが、これら成分による眠気の防止を期待して、たいていはカフェインが加えられています。カフェインの配合はまた解熱鎮痛作用をもつ薬物の効果を増強する働きもあります。
最近、「パブロン50」や「ディクルDayQuil」など、抗ヒスタミン薬やブロムワレリル尿素など眠気の出る成分を含まない風邪薬がOTC薬として販売されています。これらの薬の主成分は、熱を下げるアセトアミノフェン、咳を鎮めるテーキスト口ファン臭化水酸塩水和物のほか、鼻閉を改善するフェニレフリンや痰を出やすくするグアヤコールスルホン酸カリウムなどが配合されています。したがって、解熱、鎮咳などには効果を示しますが、鼻水が主症状の場合にはあまり適応にはなりません。
風邪の引き始めに使用する「葛根湯」や、鼻かぜに使用する「小青竜湯」、胃腸の弱った風邪に使用する「柴胡桂枝湯」などの漢方薬も眠気が出にくい風邪薬といえます。
夏風邪は冬の風邪とは異なり、症状は穏やかですが、長引く傾向があり、また高温多湿の環境で活動的になるアデノウィルスやエンテ口ウィルスなどが原因となるため、発熱、のどの痛み、胃炎や下痢などの消化器症状が主体で、鼻水や鼻づまりはそれほど多くはありません。このような夏風邪の特徴を踏まえた上で、万一罹患してしまったときには、適切な処方とともに、無理をせずに早めに休むことが一番です。