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Department of Cancer Cell Biology, University of Toyama

研究内容

未知のがん細胞シグナルネットワークに挑む現スタッフの研究業績
炎症シグナルによるがん悪性化の分子機構の解明主要論文
 がん悪性化には、腫瘍内における炎症シグナル、特にサイトカインTNF-αが重要な役割を果たしています。我々は、プロテインキナーゼTAK1が、TNF-αによるNF-κBやMAPK活性化を制御することを明らかにしてきました。現在、がん悪性化に関わる炎症シグナル経路の解析を行い、新しい分子標的の同定を目指しています。

がん分子標的の活性調節機構に関する研究主要論文
 チロシンキナーゼ型受容体(RTK)は、がん治療の主要な分子標的であるにもかかわらず、その活性調節機構については不明な点が多く残されています。我々は、リガンド非依存的に細胞内からRTKが活性化されることを見出し、その分子機構の解析を進めています。がん分子標的薬に対する耐性克服など、がん治療分野への新たな情報提供を目指しています。
悪性黒色腫の進展を制御する細胞内シグナルの解明
 悪性黒色腫は、予後不良の皮膚がんであり、更なる治療法の開発が必要です。我々は、分子生物学的手法を用いて、悪性黒色腫の新規治療法を提案してきました。悪性黒色腫の進展に関わる分子の同定、分子機構の解明、更には薬剤耐性の克服など、がん治療分野への新たな情報提供を目指しています。


代表的な公表論文

Yokoyama S. et al.,
SOX10 regulates melanoma immunogenicity through an IRF4-IRF1 axis.
Cancer Res., 81: 6131-6141, 2021. [Abstract]


【論文概要】皮膚がんの一種である悪性黒色腫において転写因子 SOX10 が、がん細胞の免疫原性を調節していることを明らかにした。SOX10 を抑制することでこれまでに知られていた JAK を介した経路でなく、IRF4 を介した経路で免疫原性を調節する重要な分子である IRF1 が誘導されること、さらに SOX10 を抑制する薬剤を用いて IRF1 を活性化することで悪性黒色腫に対する免疫チェックポイント阻害剤(ICBs)の効果が増強できることを発見した。これまで ICBs を始めとするがん免疫療法が有効でないとされてい た患者に対する新たな治療法の開発につながることが期待できる。
Zhou Y. et al., Crucial roles of RSK in cell motility by catalysing serine phosphorylation of EphA2. Nat. Commun., 6: 7679, 2015. [Open Access]

Zhou Y. et al., Cellular stress induces non-canonical activation of the receptor tyrosine kinase EphA2 through the p38-MK2-RSK signaling pathway. J. Biol. Chem., 299: 104699, 2023. [Opne Acess]

【論文概要】チロシンキナーゼ型受容体EphA2は腫瘍内で過剰発現しており、がん悪性化・進展における役割が注目されている。本論文では、EphA2のSer-897が、増殖因子や炎症性サイトカインシグナルにおいて、ERK下流のRSK1/RSK2によってリン酸化されることを明らかにした。また、このリン酸化が乳がん細胞の遊走能の制御に重要であることを明らかにした。また、細胞ストレスによっては、p38-MK2を介してRSK-EphA2経路が活性化されることも見出した。
Tanaka T. et al.,
Ligand-activated epidermal growth factor receptor (EGFR) signaling governs endocytic trafficking of unliganded receptor monomers by non-canonical phosphorylation.
J. Biol. Chem., 293: 2288-2301, 2018. [Abstract]

Verdaguer M.P. et al.
Mechanism of p38 MAPK-induced EGFR endocytosis and its crosstalks with ligand-induced pathways.
J. Cell Biol., 220: e202102005, 2021. [Abstract]


【論文概要】EGFによるEGFRの細胞内輸送機構において、従来から知られているチロシンリン酸化を介した定型的制御に加えて、下流のp38によるセリン/スレオニン残基のリン酸化による非定型的機構の存在を示した。両者のバランスが、刺激するEGF濃度により変化するデュアルモード制御機構を提唱した。
Kawasaki et al.,
Feedback control of ErbB2 via ERK-mediated phosphorylation of a conserved threonine in the juxtamembrane domain.
Sci. Rep., 6: 31502, 2016. [Abstract]

【論文概要】EGFRは、左右非対称性のホモダイマーを形成し活性化する。我々は、その片側(アクチベーター)の膜近傍ドメイン内のスレオニン残基がERKによってリン酸化されると、チロシンキナーゼ活性化阻害される負のフィードバック機構明らかにしている (Sato et al, Cancer Sci, 2013)。そこで、この論文では、ErbB2が過剰発現している乳がん細胞において、EGFRと同様にErbB2の膜近傍ドメインに保存されているスレオニン残基がフィードバック阻害に関与していることを明らかにした。
Sakurai H.:
Targeting of TAK1 in inflammatory disorders and cancer.
Trends Pharmacol. Sci., 30: 522-530, 2012. [Abstract]


【論文概要】我々は、炎症性サイトカインTNF-αシグナル伝達系の解析を行ってきた。これまでに、転写因子NF-κB活性化機構において、プロテインキナーゼTAK1がIκB Kinase (IKK) 複合体を活性化すること (Sakurai et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1998, Sakurai et al, J. Biol. Chem., 1999)、IKK複合体がNF-κB p65サブユニットのSer-536をリン酸化することなどを明らかにしてきた (Sakurai et al, J. Biol. Chem., 1999, Sakurai et al., J. Biol. Chem., 2003)。また、TAK1下流のMAPKを介してEGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体が制御されていることなどを明らかにしてきた (Singhirunnusorn et al., J. Biol. Chem., 2007, Nishimura et al, Mol. Cell. Biol., 2009)。本論文は、上記の我々の研究成果とともに世界のTAK1研究の現状をまとめた総説である。