富山大学大学院医学薬学研究部応用薬理学研究室

研究内容

痛み・痒みといった感覚を司るを神経系の解明に向けた研究に加えて、中枢神経疾患の克服に向けた予防・治療法の確立を目指した研究を行っている。痛みと痒みは,生体防御の役割を担った感覚であるが,日常生活において痛みや痒みに苦しむヒトは多い。医療の現場では,痛みや痒みを訴えて多くの患者が医師を訪ねる。神経痛などの慢性痛では痛みの軽減が,アトピー性皮膚炎に代表される慢性そう痒症では痒みの抑制が治療の主要な目的となっている。本研究室では,慢性痛に有効な鎮痛薬や慢性そう痒症に有効な鎮痒薬の開発ならびに中枢神経疾患、特に脳梗塞の病態形成機序の解明を目標に,現在,下記のような課題の基礎研究と応用研究を行っている。

1)脳疾患、特に神経変性疾患や脳梗塞の病態形成機序の解明

神経変性疾患の一つであるアルツハイマー病の発症においてアミロイドβタンパク質(Aβ)が重要な役割を果たしているという「アミロイド仮説」が認知されていますが、その毒性発現メカニズムについては未だ不明な点が多く残されております。本研究室では、Aβの立体構造のうち神経毒性を発現しやすい「毒性コンホマー」に注目し、in vitro実験系における神経細胞毒性ならびに酸化ストレスにおける,Aβの毒性コンホマーの役割を調べ、Aβの神経細胞毒性ならびに酸化ストレス誘導において、Glu22付近でターン構造を取る毒性コンホマーは重要な役割を果たしていることが明らかにしました。現在、in vivoにおけるAβ毒性コンホマーの神経毒性の機序、シナプスへの作用ならびに毒性コンホマー結合タンパク質の探索などアルツハイマー病の発症メカニズムの解明に向けた研究を進めています。

【発表】
Izuo N, Kume T, Sato M, Murakami K, Irie K, Izumi Y, Akaike A., Toxicity in rat primary neurons through the cellular oxidative stress induced by the turn formation at positions 22 and 23 of Aβ42. ACS Chem Neurosci. 2012, 3:674-81.

Izuo N, Kasahara C, Murakami K, Kume T, Maeda M, Irie K, Yokote K, Shimizu T. A Toxic Conformer of Aβ42 with a Turn at 22-23 is a Novel Therapeutic Target for Alzheimer's Disease. Sci Rep. 2017, 7:11811.



脳梗塞は予後が不良な深刻な疾患であるにもかかわらず、満足な治療が必ずしも行われておらず、有効な治療法の開発が求められている。本研究室では、胚が透明であり脳実質細胞および血管構造やその血流の観察が容易であるゼブラフィッシュを用いて、脳疾患新規モデル動物の開発を進めております。これまでに、ゼブラフィッシュを用いて脳虚血モデル、低酸素脳障害モデルの構築を構築し、脳疾患時の脳血管内皮細胞と脳実質細胞(ニューロン、グリア細胞)の相互作用の解明に向けた研究を進めております。

2)帯状疱疹痛・帯状疱疹後神経痛,癌性疼痛,抗癌薬による疼痛の発生機序の解明

疾患や投薬によって誘発される疼痛,痒み及びしびれなどの不快な異常感覚は,患者のQOLを損なうだけでなく,闘病意欲の喪失に繋がります。これら,不快な異常感覚のコントロールは,未だ既存の鎮痛薬や鎮痛補助薬では,コントロールできない場合が多く,新規鎮痛薬・鎮痒薬の開発が求められています。我々は,難治性疼痛(帯状疱疹痛・帯状疱疹後神経痛,癌性疼痛,抗がん薬誘発末梢神経障害性疼痛など),難治性掻痒(アトピー性皮膚炎誘発掻痒,乾燥性皮膚掻痒,蚊アレルギー性掻痒,花粉誘発アレルギー性眼掻痒,慢性腎不全による掻痒など),さらには“しびれ”(虚血再灌流マウスモデルなど)に関して,各種病態動物モデルの作出を行い,不快な異常感覚の発生機序の解明を行動薬理学的,細胞生物学的,生化学的,電気生理学的(in vivoを中心に)に解析を行っています。 また,多種の病態動物モデルの作出及び解析が可能であることから,製薬及び関連企業と共に開発薬や漢方方剤や関連生薬成分の薬効評価を行い,更にその抑制作用機序の詳細な解明も行っています。

3)末梢組織および中枢神経系における痛みと痒みの発生と伝達・調節機構の解明

4)鎮痛・鎮痒作用または細胞保護作用を持つ天然物質の探索とその作用機序の解析

【生体内抗酸化機構賦活による細胞保護作用を持つ天然物の探索とその作用機序の解析】
生物は呼吸により体内に酸素を取り入れて利用することで生命を維持しており、その一部が不安定で様々な物質と反応しやすい活性酸素種(ROS)に変化しうる。生体内でROSが大量に産生されると老化の進行や様々の疾患の要因となる。そのため生体内では活性酸素種を消去・軽減するための仕組みを有している。その代表的なものの一つとしてNF-E2 related factor 2 - antioxidant response element (Nrf2-ARE) 経路が知られている。この経路の活性化によりヘムオキシゲナーゼ1 (HO-1)、カタラーゼなどの抗酸化酵素やNAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)などの第二相薬物代謝酵素の発現を誘導できる。したがってNrf2-ARE経路を低分子量化合物で活性化できれば、生体は酸化ストレスに対して抵抗性を獲得した状態を維持できると考えられる。我々は天然物からNrf2-ARE経路を活性化できる物質の探索を行い、以下の化合物を発見している。

●これまでに単離・同定したNrf2-ARE経路活性化物質
●青ジソ由来DDC
【発表】
Izumi Y, Matsumura A, Wakita S, Akagi K, Fukuda H, Kume T, Irie K, Takada-Takatori Y, Sugimoto H, Hashimoto T, Akaike A., Isolation, identification, and biological evaluation of Nrf2-ARE activator from the leaves of green perilla (Perilla frutescens var. crispa f. viridis). Free Radic Biol Med. 2012, 53:669-79.

Masaki Y, Izumi Y, Matsumura A, Akaike A, Kume T., Protective effect of Nrf2-ARE activator isolated from green perilla leaves on dopaminergic neuronal loss in a Parkinson's disease model., Eur J Pharmacol. 2017, 798:26-34.



●チョロギ由来ハルパゴゲニン
【発表】
生体機能と創薬シンポジウム2017(2017年8月、京都)

次世代を担う創薬・医療薬理シンポジウム2017(2017年8月、京都)


株式会社Royal Somaとの共同研究の成果

●高麗人参由来パナキシトリオール
【発表】
日本ケミカルバイオロジー学会 第13回年会(2018年6月 東京)

第92回 日本薬理学会年会(2019年3月発表予定 大阪)



●化合物ライブラリー由来TPNA10168
【発表】
Izumi Y, Kataoka H, Inose Y, Akaike A, Koyama Y, Kume T., Neuroprotective effect of an Nrf2-ARE activator identified from a chemical library on dopaminergic neurons. Eur J Pharmacol. 2018, 818:470-479.

5)脳疾患,掻痒,疼痛および異常感覚の症状を呈する新規病態モデル動物の作出

【ゼブラフィッシュ稚魚を用いた低酸素誘発脳梗塞モデル】
ゼブラフィッシュの稚魚が透明であることを活かし、血球細胞にRFPを発現させ、血流をリアルタイムイメージングすることで閉塞、再灌流を検出する。



【ゼブラフィッシュ稚魚を用いた行動量変化を指標とした異常感覚モデル】
ゼブラフィッシュ稚魚が小さいことを活かし、マルチプレートを用いてハイスループットで、行動量評価が可能となる。これまでげっ歯類で痛み・痒みを惹起した化合物でのゼブラフィッシュ稚魚の反応を解析している。



【ADA2(adenosine deaminase 2)欠損症モデルゼブラフィッシュ】
AMED 難治性疾患実用化研究事業:京大病院 井澤先生との共同研究
希少疾患の一つであるADA2欠損症は、幼少時からの周期熱、網状皮疹、繰り返す脳梗塞を主症状とする常染色体劣性遺伝の自己炎症性疾患である。ADA2欠損症のモデル動物としてゼブラフィッシュが報告されているが、現象観察にとどまっているためADA2欠損症の病態解明と治療薬開発の基盤構築のため、ゼブラフィッシュ稚魚のADA2欠損症モデルを開発した。
【発表】
第4回ゼブラフィッシュ・メダカ創薬研究会(2018年11月、東京)

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