研究の目的
生物はいろいろな分子の秩序のある集まりで、生命現象とはそこから生まれる機能にほかなりません。分子の秩序ある集まりは、分子間での相互作用(分子の認識)によってもたらされています(図1)。しかしながら生体の分子を認識することは、生体の分子にしかできないのでしょうか?
図1 多細胞生物 マ 細胞 マ 分子の集まり
生物は細胞の集合体です。そしてその細胞はいろいろな分子が相互作用して集まったものです。上右図は、細胞の境界である細胞膜の様子を示したものです。脂質分子が疎水性相互作用で集まって膜を形成しており、さらにタンパク質や糖質が膜中や膜の上に並んでいます。
分子間での相互作用、すなわち分子と分子の間に働く力にもいくつかの種類があることがわかっています:
(1) プラスとマイナスの電荷を持つ部分が互いに引き合う静電相互作用
(2) 水を嫌う油のような分子が水の中で互いに集まろうとする疎水性相互作用
(3) 分子と分子がぴったりとくっついたときにのみ働く van der Waals 相互作用
(4) 水素をはさんで酸素や窒素が一直線に並んだときのみ働く水素結合性相互作用
などです。
ある分子を認識するためには、以上のような分子間での相互作用がうまく働くように、認識する方の分子を「設計」しなければなりません。本研究では、最新の計算機化学と有機合成化学を活用して、生体分子を認識できる人工分子の開発を行いました。