内臓脂肪組織の蓄積は、メタボリックシンドロームや2型糖尿病などの様々な生活習慣病を引き起こすことから、
その肥大化進展機構の解明は肥満病態の理解と効果的な治療法の開発につながります。
脂肪組織はヒトが成人となったのちに、その組織の容積を数倍に・E熹・蜑サさせることができる唯一の組織です。
この組織肥大化を可能にする要因として、「脂肪組織血管の新生」が挙げられます。 その結果、肥大化脂肪組織では新たな組織に効果的に酸素や栄養を供給されるのですが、その詳しい制御機構は不明でした。 当研究室では、肥満マウスの各組織を検討し、血管新生因子PDGF-Bとその受容体PDGFRβ の発現量が、脂肪組織においてのみ増加していることを見出しました。さらに、肥満病の血管新生における PDGF-Bの重要性についてPdgfrb欠損マウスを用いて検討した結果、
PDGF-B
が肥満に伴う脂肪組織で新たな血管を作る「司令塔」として機能する ことを見出しました。そのメカニズムとして、以下のことを発見しました。
- ぺリサイトは血管新生を抑制している。
脂肪組織血管はペリサイトと呼ばれる細胞に覆われており、このペリサイトが血管内皮細胞の増殖を抑制している。
肥満マウスの脂肪組織では、このペリサイトが血管から脱離することで、血管新生が起こりやすい状況にある。
A |
B |
図1 |
 |
 |
- 内臓脂肪組織の血管の免疫染色血管内皮を緑、ペリサイトを赤で染色。痩せマウスでは両者が重なり黄色に染色される。
一方、肥満マウスではペリサイトが脱離し血管が赤色になった。
- ペリサイト(緑)が脱離した血管内皮細胞において、細胞増殖マーカー(Ki67、矢印)の染色が認められた。
|
やせマウス |
肥満マウス |
肥満マウス |
- 血管からのペリサイト脱離は、肥満で増加するPDGF-Bの作用によ・阯U導される。
 |
図2 培養脂肪組織へのPDGF-B刺激 |
- 脂肪組織へのPDGF-B処置により、濃度管からのペリサイトの脱離が誘導された。
|
- 肥満の際に脂肪組織へ浸潤する炎症性M1マクロファージが肥満脂肪組織のPDGF-Bの産生源である。
 |
図3 肥大化脂肪組織におけるPDGF-B産生細胞の探索 |
肥満マウスの内臓脂肪組織を成熟脂肪組織とそれ以外の間質血管細胞に分画したところ、PDGF-Bの発現は間質血管細胞分画で高かった。
この分画をフリーサイトメトリーでさらに分画し、マクロファージにおける発現が著明に高いことを示した。
|
- PDGF-Bの作用を欠くPdgfrb欠損マウスでは高脂肪食飼育下でもペリサイトの脱落がおこらず、
肥満と糖代謝の悪化を来さなかった。
以上の研究成果をもとに、脂肪組織肥大化の機序を血管新生に着目して解明することで、肥満病態の重要な進展機構として明らかとなった血管新生を標的とした新規の肥満/糖尿病治療法の確立を目指して研究を展開しています。
- 発表論文
-
- Diabetes. 66: 1008-1021, 2017
血管新生因子PDGFが肥満を加速する機序の解明
- Sci Rep. 10: 670, 2020
- Angiogenesis. 23: 667-684, 2020
血管新生因子SDF1による肥満抑制の新機構
|