Chemical Biologyとは、生命現象に関連する広範囲なBiologyの分野において、 化学をベースとして行う新しい研究領域のことである。薬なら、例えばアスピリンを飲む。熱が下がる。 でもなぜ熱は下がるのか?アスピリンがシクロオキシゲナーゼを阻害して、アラキドン酸から・・・という作用機序がわかったところで、 化学の立場では不十分である。分子どうしがどのような力場で相互作用し、そして分子内の原子の空間座標がどう変化し、 その結果分子の様々なポテンシャルがどう変位するのかがわからなければ、"真の意味の分子レベル"で薬効を理解したことにはならない。 生命現象を化学の言葉で語るということは、原子の3次元空間座標まで意識した分子レベルへと研究を深化させることを意味する。
Chemical Biologyが目指す方向は、何も生命現象や薬効の解析だけではない。生体分子と人工分子のどちらにも精通した化学者は、 さらには生物学的な禁制律を破って、DNAやタンパク質に遺伝情報以外の機能を持たせるべく分子構造を自由に改変することができる。 化学、特に有機化学が科学全般に対して持っている圧倒的なアドヴァンテージは、「設計された分子は、生体由来であれ、 たとえいかに空想的なものであれ、そこに化学論理の矛盾さえなければ必ず合成できる」に尽きる。
我々薬化学研究室は、有機化学・分子生物学・物理化学の研究手法を駆使して、 生体分子と人工分子の相互作用を厳密に解析する研究を通し、分子と生命の接点を探り、 さらには生命現象を人為的に制御・創成することを目指す。
研究者を目指す学生にとって大切なことは、自らが学問の創成に参加する意欲である。 三年次までの学業成績は問わない。 世界のトップクラスの研究を成し遂げるためには、どんな苦難をもものともしない心意気があるかどうかが重要だ。
サイエンスを筆に自己表現を目指す研究指向の学生を歓迎する。