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話題提供 

健康寿命の延伸

(46年卒)末 木 一 夫

タイの首都バンコックにあるドン・ムアン 国際空港から、空路約40分。眼下に水田か洪 水か判別できない程度に一面が水浸しの光景 が見えてくるとカンボジアのローカル国際空 港である、シェムリアップ国際空港に到着す る。このシェムリアップは、アンコール遺跡 の最寄空港で、車で信号のない、未舗装に近 い道路をのんびりと約30分も走ると到着す る。その地は異次元の世界で、有名なバイオ ン寺院、アンコール・ワット(寺院)等多く の寺院遺跡と亜熱帯地域の樹木が鬱蒼と茂っ ている。

海外からの訪問者では日本人が最も多い。また、ここかしこで遺跡の復興作業が 行われており、日本、イギリス、フランス、 ドイツ等の諸国からさまざまな面から、支援 の手が差し伸べられている。この復興作業で も日本は最大の支援国である。従って、日本人に対する対応はかなり良い。観光ガイドも 現地人の日本語を話せる通訳が英語による通 訳と同価格である。

一見華やかなアンコール 遺跡とは空港からみて、ほぼ180度反対の方 向に約30分車を走らせると日本の琵琶湖を上 回る大きな湖の湖岸に到着する。訪問した時 期が雨期であったために、湖岸の位置が乾期 の数十km手前にあると聞いてびっくり。湖 に船を走らせると、湖面に樹木の先端部分が 散見される。こうした、歴史、自然に対する 驚き、感銘とは異なった驚きとして、住民の 生活が非常に不衛生であるという印象を受け たことである。

なぜ、冒頭にカンボジアなの か、この場で遺跡の話題はふさわしくない。 栄養、衛星の問題である。東南アジア、アフ リカ、中南米、一部の東ヨーロッパでは、こ の飽食の時代に何十億の人々が栄養素欠乏症 である。ビタミンA欠乏症者だけでも10億人 は超え、その内で失明したり、死亡したりす るケースが後を絶たない。また、不衛生によ る、感染症発症率も高い。様々な国際協力プ ロジェクトがこれらの問題を解決するために 進行していることはご存知の方も多いと思 う。

一方、日本を含めた、先進諸国に目を転 じると、栄養素欠乏症は特殊な場合を除いて ほとんどないといってよいだろう。また、衛 生面でも社会的、医療的整備が整っているた めに問題はすくない。しかし、現実には、多 くの問題点がある。たとえば、偏食、栄養バ ランス不全、環境汚染による、食の安全等数 え上げればきりがない。日本は驚異的な速度 で平均寿命を引き上げた結果、現在は男女共 世界の最長寿国である。しかし、価値ある長 寿といった面からは、健康長寿の延伸をさら に推し進めて生活の質(QOL)の改善を図る 必要がある。

また、伝統的和食から、欧米食 への変換。車社会による運動の減少等生活習 慣に関連した、いわゆる、生活習慣病の罹患 率が増加している状況の打開といった観点も ある。そうした内、第3次国民健康運動であ る、「健康日本21」プロジェクトが2000年か ら2010年の11年間(2005年に中間チェック) の予定ですすめられている。この健康維持・ 増進運動の目的は先述した、健康寿命の延伸、 生活習慣病の1次予防であるが、これらの大 目標の基に9つの分野に分けて具体的な達成 数値目標が設定されている。

この健康運動の 骨子は、国民一人一人が主体となって設定さ れた目標を達成しよとするもので、そのため に、国・都道府県・市町村が積極的に支援す ることが求められている。特に、都道府県は、 各都道府県版の「健康日本21」支援プログラ ムを策定して推進することが、昨年8月に公 布、今年5月に施行された、健康増進法で決 められている(市町村は努力目標)。こうし た第2次までの国民健康運動より、さらに明 確になった目標を持つ「健康日本21」運動に 産業界がどのように参画できるのか。

また、 アカデミアはどのように協力できるのか。例 えば、現在、日本薬剤師会が「かかりつけ薬 局」を、日本医師会が「かかりつけ医」を、 日本歯科医師会が「8020<ハチマルニーマル 運動>」を日本栄養士会が「各種栄養情報の 充実を」日本看護協会が「たばこの害を啓発」、 全国保健連合会が、日本ウオーキング協会が、 チェーンドラッグ協会が、そして、健康日本 21推進フォーラム等が、様々な視点・役割か らの支援活動が目に見えてきた。

そして、産 業界も利益を生み出さなければ消滅するとい う構造をもちながらも、様々な観点・視点か ら取り組もうと試行錯誤をしているのが見え 隠れする。こうした、健康維持・増進運動が すすめられるなか、医療および食に関係する、 個人・組織は主体的でなければならないのは 当然であろう。ただ、主体的に取り組むには、あまりにも、制度的な問題点が多すぎる。

例 をあげるときりがないが、少し紹介する。健 診制度、食薬の高いハードル、先端医療への 過剰な予算措置、研究者の偏在。健康問題に 関して、いま求められているのは消費者を中 心に据えた、官・学・産をあげての対応であ る。たとえば、インフォームドコンセントが 大分浸透してきたが、その現状は治療側から の一方的な説明。同意を決断するための患者 側の情報不足。

食の世界では、表示の不備、 JAS制度を含めた種々制度の場あたり的な展 開、不十分な国際的整合性。様々な場でご活 躍の諸氏が、参加されているこのような場で、 いま私が関わっている「健康日本21」、サプ リメントを含めた食の機能と安全。今後関わ りたいと思っている、薬剤師の世界につき議 論ができる何か問題提起をすると共に、ご批 判をいただければと思う。

 

 

 

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