富山大学

分子細胞能学研
Cell Biology Laboratory

 

ABCトランスポーター研究の新展開

 

 ATP-Binding Cassette (ABC) トランスポーターは、膜結合ドメインとそれに続くATP結合ドメインをもつ一群の膜タンパク質で、生体膜を介した物質輸送に重要な役割を担っています。ABCトランスポーターには、その構造上、フルサイズとハーフザイズが存在し、後者はダイマーとして機能しています。(図1)。例えば、脂溶性異物(抗がん薬など)を排出し、ガン細胞の多剤耐性に関わるP糖タンパク質(ABCB1)、末梢組織の細胞からコレステロールを排出し、HDLの形成に関わるABCA1など、現在ヒトにおいて49種類のABCタンパク質が同定されています。これらは、アミノ酸配列の相同性より、ABCAからABCGまでの7つのサブグループに分類され、それらの異常は、種々の遺伝性疾患の原因となっています。

 私たちの研究室では、サブファミリーDに属するABCD1-4の研究を進めています。ABCD1-3はペルオキシソーム膜に局在し、長鎖脂肪酸、極長鎖脂肪酸、胆汁酸中間体のペルオキシソーム内への輸送に関与しています(図2)。ペルオキシソームは、脂肪酸のβ酸化やコレステロールの胆汁酸への変換など、脂質代謝と密接に関わっています。またペルオキシソームの機能障害は、重篤な脂質代謝異常症をもたらすことが知られています。因に、ABCD1の機能障害は、細胞内の極長鎖脂肪酸蓄積を特徴とし、中枢神経系の脱随と副腎機能不全を呈する副腎白質ジストロフィー(ALD)の原因となります。ABCD3の機能障害は肝臓での胆汁酸生合成を阻害し、重篤な肝臓障害(肝脾腫大症)を起こします。一方ABCD4は、リソソームからのビタミンB12の排出に関与し、その障害は重篤なビタミンB12欠乏症の原因となっています。最近、私たちはABCD1の機能とABCD4のリソソーム局在化機構について、興味深いことを見出しています。

ABCD1を介した極長鎖脂肪酸CoAの輸送機構  ABCD1は極長鎖脂肪酸CoAの輸送に関与すると推定されていますが、その輸送機構の詳細は不明でした。最近、植物ペルオキシソーム膜に局在するABCD1ホモログCTSがacyl-CoA thioesterase活性を有し、極長鎖脂肪酸CoAを分解し、遊離した極長鎖脂肪酸を輸送する可能性が示唆されました。そこで私たちは、ヒトABCD1をメタノール資化性酵母Pichia pastorisに安定発現させ、acyl-CoA thioesterase活性をもつ可能性と基質輸送機構について検討しました。P. PastorisにABCD1発現させると、ABCD1はペルオキシソームに局在化し、ATPase活性とacyl-CoA thioesterase活性をもつことが明らかになりました。またATPase活性は、ATPの結合・加水分解に関わるWalker AモチーフのLys413をAlaに変異させると顕著に低下しました。Acyl-CoA thioesterase活性は、2番目の膜結合ドメイン(TMD2)の細胞質側に存在するSer149をAlaに変異させると顕著に低下しました。ALD患者にも同様のアミノ酸残基の変異が存在することより、極長鎖脂肪酸CoAは、一旦加水分解されて輸送される可能性が示唆されました。図3に示す作業仮説に基づき、ABCD1の極長鎖脂肪酸CoA輸送機構の詳細を解析しています。

ABCD4のLMBD1を介したリソソーム局在化機構
 私たちは、ABCD1-3はペルオキシソームに局在し、ABCD4は、NH2末端に存在するペルオキシソーム移行シグナルを欠失するため小胞体に局在化することを見出しました。最近、ABCD4遺伝子の異常によって、リソソームでのビタミンB12蓄積を示すビタミンB12欠乏症患者が報告され、ABCD4はリソソームで機能していると予想されます。ビタミンB12は、血中でトランスコバラミンと結合した後、エンドサイトーシスによりリソソームに取り込まれ、輸送体を介して細胞質に排出されます。その後数段階の反応により、メチルコバラミン、アデノシルコバラミンに変換されて補酵素として利用されます(図5)。ABCD4異常と同様のフェノタイプが、リソソーム膜タンパク質LMBD1をコードする遺伝子LMBRD1の異常によっても報告されています。よって私たちは、ABCD4とLMBD1が協調してABCD4のリソソームへの局在化とリソソームからのビタミンB12の輸送に関与しているという仮説をたてました(図6)。実際、ABCD4-Hを哺乳動物細胞に安定発現さると小胞体に局在しました。次いで、この細胞に、LMBD1を共発現させると両タンパク質はリソソーム上で共局在しました。一方、LMBD1は単独でリソソームに局在しました。また、LMBRD1遺伝子を破壊し、内在性のLMBD1を欠損させた哺乳動物細胞では、リソソームに局在しているABCD4の量が顕著に低下しました。現在、リソソームからのビタミンB12輸送はABCD4が担い、LMBD1はABCD4のキャリアーとして機能している考え、ABCD4/LMBD1を介したビタミンB12のリソソームからの排出機構をその異常を詳細に解析しています。



 




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